【広報・社内報デスク】by ONTHEDESK

広報クリエイティブの視点から考えるイケテル広報戦略のアイデアと表現

【第4回】「マインド」のフォーマット化=成功する広報ブランディングの基礎要件

【広報戦略TIPSシリーズ_004】広報クリエイティブの視点から考えるイケテル広報戦略のアイデアと表現

共英製鋼 VKS社新工場竣工記念誌「VENTURE UPON THE MEKONG~メコンを興せ!~」

共英製鋼 VKS社新工場竣工記念誌「VENTURE UPON THE MEKONG~メコンを興せ!~」(左:表紙/右:現地取材記事)

「コンセプト」を共有していても、着地点が同じとは限らない。

広告であるか、広報であるかを問わず、クリエイティブという目に見えない種類の作業工程(=頭の中の思考+想像+創造の回路)を経て、着地点(=表現物というアウトプット)に至らせる仕事にとって、一つの案件に携わる制作メンバーが同じ方向を向いているべきことは、まさにマスト要件です。
そこで必ず登場する言葉が「コンセプト」なるもの。いわく、「この広告のコンセプトはクルマの未来です」とか、「このデザインは物事の始まりをコンセプトにしています」とか。
では、その案件に携わるメンバーが「クルマの未来」とか「物事の始まり」といったコンセプトを共有してさえいれば、みんな同じ着地点へと導かれるかと言えば、当然そんなことはありません。
人間のクリエイティブシンキング(Creative Thinking)は、個々の人間が自動的に同じアウトプットを導き出す程コンビュータライズされてはおらず、またそんな一面的なつまらないものでもありません。だからこそクリエイティブは面白いのであり、一方で方向性が定まらないと手に負えないものでもある訳です。では、どうしたらいいのでしょうか?

 

「マインド」を掘り起こし、共有する。そして、アウトプットを統一する。

ここまでの話を読んで、「あ、わかった。要するにトンマナのことが言いたいんでしょ?」と思った人は、正解に近いですが、しかし完全に正解ではありません。そして、この完全に正解ではない、というところにこそ問題があるのです。どういうことでしょうか?
「トンマナ」(=トーン&マナー)とは、コピーライティング、デザイン、写真という、クリエイティブの表現物を構成する主な要素の雰囲気、人間で言えば、顔立ち、表情、声、話し方、話題、ファッション、歩き方、好み、などによって醸し出されているその人の個性、ということになります。一言で言えばどんな個性の、どんな雰囲気のアウトプットとなるのかを決める表現上のコード、それが「トンマナ」です。では「コンセプト」を共有し、「トンマナ」で調整すると、素晴らしいアウトプットが出来上がるのか?と言えば、「らしい」もの(=よく見かけるもの)は出来上がるが、「オリジナル」なもの(=ホンモノ)は出来ない、が答になります。よく言われる「似たような広告」とか、「ああ、そうなんですか」的反応を引き出す広報物しか生まれてきません。実に残念な話です。制作メンバー一同、一生懸命やっているというのに。。

この原因は一体どこにあるのでしょうか?その答は、「コンセプト」と「トンマナ」の間にあるべきもの=「マインド」が欠けているから、です。
「マインド」とは何でしょうか?それは、企業がその広告や広報物を通して伝えたいオリジナルな「思い」です。その「思い」は、その企業独自の「来し方行く末」から紡ぎ出されたものであればあるほど、リアリティがあり、また共感やリスペクトを呼ぶものです。製品の開発ストーリー、サービス改善努力中の発見、といったところに「思い」は隠れています。

「コンセプト」は意外に簡単に見つかります。「トンマナ」もプロフェッショナルなら熟知しています。しかし、「マインド」は掘り起こさなければなりません。まさに宝探しのようなものですが、一旦、宝の原石が見つかったら、磨けば磨くほど輝きます。
まとめると、「コンセプト」という目的に沿って、「マインド」を掘り起こして共有し、「トンマナ」によってオリジナルなアウトプットが出来上がるように、コピー、デザイン、ビジュアルを統一化する。これが、完全なる正解です。

 

「マインド」のフォーマット化が、広報ブランディングを成功させる。

「マインド」のオリジナルなフォーマット化(コピー、デザイン、ビジュアルの統一化)を行った結果、広報ブランディングとしても成功した冒頭のビジュアルの一例を紹介します。
制作物は、国内の電炉業界の最大手の一角を占めるクライアントのベトナム現地合弁会社20周年記念誌。現地工場やメコンデルタホーチミン市内での取材・インタビュー・撮影を含む全84ページの大型案件で、何より「マインド」の掘り起こしが最重要であることは案件着手時から明らかでした。

制作チームでは、ベトナム戦争終結間もない頃に遡る現地での技術指導、社会主義政府との粘り強い交渉を経ての設立、多数のベトナム人社員の雇用と目覚ましい業績により、ベトナム経済と鉄鋼業界の発展に大きく貢献してきた歴史、それを可能にして来たこの企業独自のチャレンジスピリットと共存共栄の思想に着目。結果、「メコンを興せ!~VENTURE UPON THE MEKONG~」というタイトルを提案し、そこに「マインド」のすべてを集約。現地での取材・撮影、そして編集段階でのコピー、デザイン、ビジュアルを通じ、一貫してこの企業のダイナミックで熱い歴史と現地ベトナムの発展の鼓動を再現する(興す)ことに努めました。そして得たアウトプットは、隅々にまで「マインド」の行き渡ったまさにオリジナルなものとなりました。
案件着手時に膨大な情報量とスケールに圧倒される程だったものが、「マインド」の掘り起こしとフォーマット化により一つの強いベクトルに収斂され、わずか3か月余りの制作期間において理想的なアウトプットとして完成した極めて印象深い事例です。

※初出情報 本記事は2016年11月15日に「クリエイティブ経済誌 BTL (Business Timeline) 」に掲載されたものです。

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